あなたと家族に笑顔が戻る、心臓病の最新治療
QOLを高める心不全の最新治療法 心臓再同期療法
 岩淵座長 心不全の最新治療の心臓再同期療法について小倉記念病院の安藤先生にご講演お願いします。

 安藤 ペースメーカーで心不全を治療する心臓再同期療法は、10年くらい前からフランスなどのヨーロッパから始まりました。日本へ入って来たのは非常に遅く、2004年のことです。

 まず心臓についてですが、心臓は電気信号が伝わることで動いています。通常、1分間に60回ほどです。健康な方の場合、電気信号は一定のリズムで伝わり、心臓は効率良く動いていますが、心不全の患者さんの心臓の中では、電気信号が少し遅くなり、ずれるように伝わってしまいます。本来、一瞬にして心臓が収縮するように電気信号は伝わりますが、早い部分と遅い部分とバラバラに伝わってしまうわけです。すると、ある一部分は早く心臓が働いて、ある一部分はゆっくり働くというように、いびつな動きをしてしまいます。このように心室が同期障害を起こしている状態を、心室同期不全といいます。

 ただ、実際には心不全の患者さん全員に心室同期不全が起こるわけではありません。通常15%くらい、重症になると30%くらいの患者さんに起こります。さらに悪いことに、心室同期不全が起こると、心不全死、不整脈死を合わせた死亡率が高くなってしまうのです。そのため、心不全の患者さんは同期不全を治さなければなりません。

 心臓再同期治療法とは、この同期不全を補正するためにペースメーカーを植え込んで、遅れている部分にペースメーカーで早く電気信号を送り、同期不全を元通りに再同期する治療法です。簡単にいうと、ペースメーカーを使って心臓のポンプ機能を取り戻す治療法です。

 治療の方法ですが、肋骨の下を5〜8センチ切開し、その下に小さなポケットを作ります。この部分にある鎖骨下静脈沿いに、電気信号を伝えるための細いリード線を3本、心臓の中に入れ、あとは本体につないで傷口を閉じて終了です。従来のペースメーカーは右側だけにリード線を入れますが、心臓再同期療法では右心房と右心室に1本ずつ、そして特殊な道具を使って、もう1本を左心室に入れます。

 ペースメーカーの大きさは5センチ×6センチくらい。厚さは8ミリほどで、15cc、重さは26グラムです。これくらいの大きさなら植え込んでも体の中に違和感はありません。

不整脈を治す機能を持った新しいペースメーカーも登場
 06年からは、悪玉の不整脈を退治してくれる機能も付いた心臓再同期療法のペースメーカーも出ています。心不全の患者さんは悪玉の不整脈が出やすく、突然死することがあります。しかし、このペースメーカーを植え込んでおくと、悪玉の不整脈が起こったのを感知し、治療してくれます。

 例えば、これが一番怖いのですが、心室細動といって、脈が速くなるだけでなく、心臓が震えるようになってしまう不整脈があります。そういう不整脈になると、電気ショックを与えないと助かりません。新しいペースメーカーは、悪玉の不整脈になって心臓が揺るようになっても、電気ショックを与えて元の脈に戻してくれるわけです。

 ただ、容量は若干大きくなってしまいます。縦横はそんなに変わりませんが、厚みが14ミリ、38cc、重さは77グラム。皮膚の下に入れると、少しだけ盛り上がります。最近は、患者さんにメリットが大きいということで、こちらを勧める場合が多いようです。

 普通、心不全の患者さんは、ニューヨーク心臓協会の心機能分類であるNYHAで分類します。NYHAにはクラスI〜IVまであり、一般的に心臓再同期療法はクラスIII〜IV、つまりちょっと歩いたら息苦しい、安静にしていても息苦しいという中等度から重症の患者さんで、適切な薬物療法を行っていて、心電図のQRS幅が130ミリ以上、左室駆出率が35%以下の患者さんに適用されます。

期待できる多くの効果 通常の日常生活も可能
心不全患者への治療アプローチ 実際にどれくらい良くなったかですが、心臓再同期療法をやった患者さんの約7割に症状の改善が見られました。生活の質・QOLが大いに改善したというアンケート結果も出ています。では、なぜ生活の質が上がるのか。日本での症例が増えてくる中で、実は心臓の部屋が小さくなることが、この治療の本質だということが分かってきました。心臓の部屋が小さくなれば、息切れも楽になります。心不全になって心臓が疲れて大きくなり、いびつな形になってしまうことをリモデルリング。逆に、悪くなった心臓がどんどん小さくなって元の形に戻ることを逆リモデルリングといいますが、心臓再同期療法によって心臓が逆リモデルリングしたわけです。

 さらに、心不全の患者さんに多い再入院が非常に減る、合併症である僧帽弁逆流症が改善されるといった効果もあります。もう一つ、欧米の臨床試験では心筋梗塞の患者さんには少し効きにくいという結果が出ましたが、日本の場合はちょっと違うのかもしれません。というのは、日本の患者さんはPTCA(心臓カテーテル手術)を受けている方が多いため、心臓の機能が戻りやすいのです。日本の患者さんの場合は、心筋梗塞を起こしていても心臓再同期療法が比較的効くようです。  ただ、心臓再同期療法を受けた後も、適切な心不全の薬は続けないといけません。また、定期的に病院で機械が正常に作動しているか、リード、電池は問題ないか、チェックを受けていただきます。大体5年ほどで電池が切れるため、その時は電池のみ交換します。

 この治療は、厚生労働省が定めた心臓再同期療法ができる施設基準を満たしたところでしか受けられません。日本で270施設くらいが認定を受けています。

 退院後の日常生活の制限は基本的にあまりありません。運動は、術後3カ月くらいは、あまり無理をしないで下さい。自動車、電車、飛行機に乗るには全く問題ありません。ただし、自動車を運転する場合、ある種の機械は医師の許可が必要な場合があるので、ご相談下さい。食事や飲酒については、塩分や水分の制限があります。携帯電話は使ってかまいませんが、22センチ以上、機械から離して使って下さい。左胸に入れている方は右手で、右胸に入れている方は左手で使うようにします。  今後、日本における心臓再同期療法の臨床データが蓄積されていき、多くの心不全の患者さんに恩恵がもたらされるものと思います。

 岩淵座長 安藤先生ありがとうございました。心臓再同期療法は、特殊なペースメーカーを使った心不全の最新の治療法です。中等度から重症の患者さんの約 7割に効果のある可能性があります。これからますます、こういう治療法が発展していくのではないでしょうか。