
心臓をロバに、体を荷台に例えると、ロバは毎日荷台を引いています。健康な心臓は元気なロバと一緒で、重い荷物を引くことができます。一方、心不全とは弱ったロバが荷台を一生懸命引いている状態と考えていただくといいでしょう。
心不全には、右側の部屋の機能が悪くなった右心不全と、左側の部屋の機能が悪くなった左心不全の二つがあります。大部分は左心不全で、十分に酸素を送り出せないため酸素不足となります。動いた時に息苦しい、坂道が上がれない、夜中に息苦しい、これらは左心不全の典型的な症状です。他にも脈が速くなる、せきが出る、ひどい場合は血痰が出る、といった症状が見られます。右心不全の場合は、血液をうまく体中に回せないため、内臓がうっ血して食欲がなくなったり、お腹が痛くなったり、水分がたまって足がむくんだりします。
心不全の患者は全世界で約2,200万人、日本で約160万人。60歳以上の日本人の100人に1人は心不全患者といわれています。その内訳ですが、64歳くらいまでは男性が多く、それ以降になると男女の差はほとんどありません。
心不全は症候群で、原因となる疾患は様々です。主な原因疾患としては、狭心症や心筋梗塞といった虚血性心疾患、高血圧、弁膜症、心筋症などがあげられます。また、糖尿病は冠動脈を段々狭くしていきます。糖尿病の患者さんが心不全になると、後の治療が非常に困難なので、しっかり治療していただきたいと思います。
心臓病による死亡理由は、大きく分けて心不全死と不整脈死の二つです。急死した場合は、ほとんどが不整脈死です。心不全が非常に重症になると、不整脈が発生して亡くなります。今は、この不整脈と心不全の両方をコントロールできる機械ができています。
患者さんの心不全を評価するために、医師は問診、診察、検査を行ないます。そして、心機能障害の種類と程度、原因疾患を決定し、予後の推測や、ガイドラインに沿った治療を実施します。診断に必要な検査は、心電図、胸部レントゲン、採血、エコー、心臓カテーテルなどです。心不全は、治ってもまた起こりやすいという特徴があります。呼吸困難や体重増加は非常に悪い兆候です。再発を防ぐためにも、患者さんはライフスタイルを改善し、カロリーや塩分を制限する、タバコを吸わない、酒を飲まない、適度な運動をする、毎日の体重や血圧を測定する、といったことを心掛けて下さい。肥満を正常に戻すだけでも、心臓の負担は随分軽くなります。また、禁煙は極めて大切です。一方、医師は心不全に対するジキタリス、利尿剤、ACE阻害薬、β遮断薬などの薬物療法や、高血圧、高脂血症、糖尿病の薬物療法、PTCA(心臓カテーテル手術)やステントの留置、不整脈の治療、さらに最近では心臓再同期療法という特別な治療などを行います。
いずれにしても心不全の原因疾患を早く特定し、それに対する治療を行うことが大切です。何か症状がありましたら、ぜひ早めに病院に掛かっていただきたいと思います。